10月27日「ここから始まる“新しい”テレビドラマ」

国際ドラマフェスティバル in TOKYOが主催する、東京ドラマアウォ―ド10周年記念シンポジウム「ここから始まる“新しい”テレビドラマ」に行ってきました。

今のテレビドラマを代表する4人の脚本家と、各テレビ局の若手のドラマプロデューサーやディレクターが参加し、今のテレビドラマについて話し合う、というものでした。

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まあ、これを見ていただいたらわかるように、脚本家陣がとてつもない豪華さでした。

井上由美子古沢良太、坂本裕二、野木亜希子。

そして、各局のプロデューサーは、NHK、民放各局、WOWOW、制作会社などの若手がそれぞれ二人出席しておりました。

野木亜希子✖TBS峠田(『逃げるは恥だが役に立つ』)、坂本裕二✖TBS佐野(『カルテット』)、古沢良太テレビ東京阿部(『鈴木先生』)などの組み合わせも。

会場は、中央にドーナツ型の大きいテーブルがあって、そのテーブルの後ろ両側に階段状の客席がある。結構、年齢層は高めでした。学生用の席もあったのですが、自分は応募の時学生って書いたのに一般席に案内されてしまいました。あとでわかるのですが学生席だと質問したり議論に少し参加できたので、ちょっと残念でした。質問したかったなー。

シンポジウムは前後半に分かれており、前半は、プロデューサー陣からの質問に脚本家が答えていく、というもの。質問するのが仕事仲間の作り手であるからこその質問も多く、視聴者の自分にもとても聞きごたえがあった。そして、同じ脚本家でありながら、4人の個性がとにかくバラバラで、この4人がひょんなことから同居することになって、4人で一つの作品を作り上げる、というドラマこそ観たい、と思いました。

まず、脚本家の皆さんの仕事を引き受ける基準(局、企画、人)が話題の中心でした。たとえば最初の質問はTBSの佐野さんの「仕事を引き受けるときに大切にしていること」というものでした。

野木「企画か人。逃げない人で気概のある人が良い」

古沢「企画は受け付けない。企画というよりも、自分の思いついたものを誰に当てるか、を考える」

坂元「特にこだわりはない。でも、好きな俳優を連れてくる人やいい作品を作った人だと尊敬できる」

井上「基本だれでも良い。電話さえくれれば」

印象的だったのは、フジテレビの田中さんの「今のフジテレビにダメ出しを」というものに対する脚本家の方々の回答で、

井上「なぜか、つまらなく見えてしまう。ただ、『刑事ゆがみ』は面白い。」

野木「自由に出来てない感じと女性プロデューサーが少なくなっている印象」

古沢「局とではなく、人と仕事してるので特にない。が、最初行ったときはもっと怖くて、視聴率の猛獣たちがいっぱいいる感じだった」w

坂元「一つもない。というより、局全体について差はない。ただ特に個人的にはフジテレビの血が流れている」w

ここから、坂元さんが、幾度か、あくまで脚本家は個人事業主に過ぎなくて、人とお仕事をしているので、局や会社で判断はしないとのお話をされていました。逆に言うと、局の方々は自分たちの会社がよそと違っている部分を体感しているのだろうな、とも思いましたし。ただ、坂元さんが唯一おっしゃっていたのは「NHKは明らかに自由度が高い」とのことでした。あと、井上さんのテレ朝はターゲット層が高いというのには納得しました。やっぱりか、位の感じですが。 でも、やはり、みなさん、一番大切にしておられるのは「人」ということだったのかなと思います。

そして、その他の話で言うと、WOWOWなどの有料放送についての考え方では、評価が数字で出ることが健全でありながらも、厳しい面もある、と。

そして、「連続ドラマ」の魅力、について。

坂元裕二が語ったのは、「ドラマと映画の最たる違いは、人間を描くのにかけられる時間。ここで差別化するしかない。昔は13話が主流だったのがいつの間にか10本にまでなってしまっている。10話がギリギリで、本当は12話で書きたい。海外は、終わりを決めることなく始める。理想は2クールでもやりたい。」

それを受けて、野木さんは「書き始めるのがクランクインの3か月前だったりするから仕方ない部分はあって、脚本家だけでなく、テレビ局の人たちもみんなギリギリのところでやってるから、抜本的な改革が必要」と。

 一方、古沢良太は、長い方が良いとは認めつつも、10話でやるからこその面白さもある。と言い、『やすらぎの郷』のように企画に枠を合わせれるようになると良いのでは、と語った。

井上由美子大河ドラマ・朝ドラの経験から、2クールめに入ったくらいの時期に人物像が確立されたりすることもある。と認めたうえで、役者のスケジュールの問題を挙げた。

そして、後半は、各局のプロデューサーの企画のプレゼンが行われました。今後、作品として出てくることもあると思うので、それに関してはどの局がどんなことをしようとしているかについては割愛します。ただ、個人的に一つすごくなるほどと思ったことがあって、どなたの発言かは覚えてないのですが、今のドラマの作り手は80~90年代の視聴率が良くて面白いとされていた時代のドラマを観ていた人たちが多く、そういう人たちにとって、かつてのその時代のドラマが「ベタ」になってしまっているから、あえてそれを避けてしまっているのではないか、というものでした。この観点はなかなか興味深かったです。あと、ラブストーリーの話で坂元さんが「結局、良い役者がそろうこと。男女の素敵なペアを見つけることが一番」「ラブストーリーは話が動かないから地味」と断言していたのが印象的でした。

あと、古沢さんの「なんで、先に10話書き上げてしまうことが出来ないのか」という疑問もなかなか今のドラマ界の課題に繋がっているのかな、と。古沢さんは結構反骨心が強いというか、逆境に光を見るタイプなんだな、と思った。なんとなく、藤井健太郎ぽいな、と思った。

このシンポジウムから感じたのは、窮屈感と閉塞感でした。しかも、それは脚本家の方たちだけじゃなくて、テレビ局側の人たちも、視聴者も感じていることで、誰も今、ハッピーじゃないような気がしました。だれも得していないこの現状がなぜ生まれたのか。視聴率は確かにある程度取らなくてはならない。もし、2クールにしたドラマの初回の視聴率が極端に低かったら、と考えるとリスクは高い。でも、そのリスクを抑えることは出来るのではないか。『渡る世間は鬼ばかり』のように長く続くものもある。単純に人材不足の様相もある。役者のスケジュールはもちろんのこと、プロデューサーも今クールだけではなく次に手掛けるものにも時間を割かなければならない。だとすると、漫画や小説などの原作があるものは、プロデューサーとしては、物語が最後までわかっていることや原作の人気に少し頼ることが出来るから、そりゃ易きに流れるよなあ。でも、プロデューサーも自分たちの企画を成立させるために必死でやりくりしなければならないわけでそうなった時、その企画にGOを出す人と、スポンサーが柔軟になってくれることを祈るしかないわけで、でも、大企業って勝負しないからなあ、と絶望したくもなる。でも、逆に一社がそういう流れに以降するなら、一気に追随する可能性も大いにあるわけで、それを待つしかないのかな、と。みんな、面白いものを見たいし、面白いものは作りたいに決まってて、でも、それはできないんですよね~はもう見たくないし、聞きたくない。

なんか、どうしたらいいのかわからないですけど、大学生とかそれなりの数投入すればいいのになって思いますけどね。多分、俺みたいにテレビ好きな人いっぱいいるだろうし。アナウンサーだけを早めから囲うんじゃなくて。表の華やかさだけ競ってんのがすごくダサい。

人材育成する場所が絶対必要で、なんなら脚本家の数も役者の数ももっと必要なんじゃないかと。一番視聴率を取ってる朝ドラが一番キャスティング攻めてて、もちろん、朝ドラに出ることで一人前ってなる部分はあるのかもしれませんけど、別にその流れは民放でもできるだろうし。なんか、民放ももっとオーディションで主演決めたりすりゃいいのに。72時間ホンネテレビが成功してしまった今、あらゆる「できない理由」は詭弁でしかないと思います。「ネットテレビだから」と口にした瞬間負けであり衰退の一途です。でも、この場に来ていた各局の人たちのホンネを聞くと、誰も諦めてないし、野心に満ち溢れていると思えたので、良かったです。

 

p.s. 坂元裕二の次回の構想が聞けて、凄く満足でした。やっぱり、満島ひかりでお願いします、と言いたくなる。